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あの人に着てもらいたい


あの人に似合う色で

あの人に似合う柄で


自分で作りたい


あの時のお礼の意味を込めて・・・




(お父さんと知世ちゃんに教わって

毎日少しずつ縫うと決めたんだもん)


毎日、夜遅くまで縫っていた。

お祭りの日までに縫い終わるには

裁縫の得意な人なら余裕で終わるが

さくらは裁縫が苦手だった。

睡眠不足で、学校の授業は眠くて仕方がない。

挙句の果てには、眠りが深すぎて椅子から落ちそうになり

プレゼントする相手に助けられる始末・・・


(あれはやっちゃった・・・)


知世のおかげで小狼に悟られずに済み

帰り際になんとか待ち合わせの約束は取りつけた。


さくらは、小狼へのお礼のために

あえてこの難題にチャレンジした。

途中、何度もあきらめたくなったが

小狼への感謝の気持ちを思い出して、また縫い始めた。


「痛っ・・・痛いよぉ・・・」


涙が出そうになったが

これを着た小狼を想像して、また針を進める。


(きっと似合う!)


さくらは浴衣を縫いながら

小狼との色々な思い出を振り返っていた。

かつて、クロウカードを集めていた時

小狼はライバル。

なのに、いつも助けてくれた。

それは彼の優しさなのだ。


怒った小狼

一生懸命な小狼

照れた小狼


そして、優しく微笑んだ小狼・・・


(私、何考えてんの?!まるで小狼君のこと)


これは小狼へのお礼なのだと

雪兎の話を聞いてくれた小狼へ感謝の気持ちを伝えたいだけだと

自分に言い聞かせた。

さくらは頬をピンク色に染めて

ドキドキしてしまった自分の心を静める。


「ふぅ~・・・」


針を進めてみるが

やはりまた小狼のことを考えはじめる。


「香港ではお祭りとかで浴衣着るのかなぁ?

お祭りの日に聞いてみよっ♪」


ふたりで浴衣を着て

お祭りに行く日を思い浮かべて、また頬を染めてしまう。

さくらは心臓の高鳴りを感じて

何故だかわからないが、少し焦った気持ちになった。


(小狼君のことを考えると

な、なんか・・・ドキドキしちゃう)


そして、また縫い始める。


さくらが小狼への気持ちに気が付くのは

まだまだ先のお話。



チェンジのカードを捕獲した時

俺はまだアイツに対して何とも思っていなかった。


ケルベロスと入れ替わってアイツの部屋に入ったが

ただ面倒でしかなかった。

知識もなしにクロウカードを集めていて

俺にとっては邪魔な存在だったし

何より、あの甘さが気に入らなかった。


早く元の身体に戻りたいと

そればかり考えていた。



でも今は違う。


この部屋でアイツが生活していると想像する。


この机で悩みながら勉強して

ここであの髪を梳かして

ここで服を着替えて


このベッドで・・・


今、ケルベロスの姿にチェンジできたら

秘密で見てみたいもの触ってみたいもの

色々気になって仕方がないだろう。

あの時のように

普通に一夜を過ごせるだろうか。


寝顔をみても

寝言を聞いても


正常でいられるだろうか・・・



触れたくてたまらなくなるだろう。


全てが愛おしくて

狂ってしまいそうになるだろう。




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下校中、知世とさくらの後ろを歩く小狼は

そんなことを考えていた。

知世が手を振って帰って行く。


小狼が思いに耽っていると

さくらの顔がひょこっと目の前にきていて

鼻が当たるくらいの距離に驚く。

「っ・・・!」

「小狼君?」

「ごめん・・・な、なんだ?」

「今日、お父さんもお兄ちゃんも遅いから

一緒にお夕飯どうかな?・・・って」

「ああ、大丈夫だ」

「知世ちゃんは習い事なんだって」

「そうか」

「・・・それからね、お願いがあるの」

「ん?」

さくらは頬をピンク色に染めて

もじもじしながら小狼に視線を送る。

「英語の宿題、教えてくれない?」

彼女から可愛く上目遣いで見つめられたら

当然のようにノックアウトされてしまう。

「・・・あ、ああ。俺でよかったら」

「ありがとう!」

早く早く!とさくらに手を引っ張られながら

さくらの家へ向かう。


再び、さくらの部屋に入る時が訪れ

先程まで考えていたことが戻ってきて

小狼の心臓が高鳴る。


密室で、愛おしい彼女が近くに居て

正常でなんかいられるわけがない。


これから起きることを想像してしまうから・・・

答え聞けなかったな・・・

どう返事してくれるつもりだったのかな。

困ってなきゃいいけど。


でも・・・


俺にはやらなきゃならないことがある。


これは一時的な病気のようなものだ。

香港で次期当主として感情を抑え

かつての様に仕事に打ち込めばいい。

日本で過ごしたこの幸せな数年間は夢だったのだ。


そう、夢だ。


忘れてしまえばいい。



カードは集め終わって、次のプロローグへと。


終わりへの始まり・・・

そんな言葉が適当だろう。


空港行きのバスの中で

小狼は目を閉じて最愛のひとを思い浮かべ

その名を呟く。

「さくら・・・」


(叶うなら・・・もう一度会いたい)


「小狼君!」


?!


遠くから自分を呼ぶ声がする。

出発時間も告げてないのにさくらがここにいるわけがなかった。

バスの窓を開けて声がする方を見ると

さくらが桃矢のバイクから降りて走ってくる。


「さくら!」


「私・・・わかったよ、自分の気持ち!

私の一番は小狼君だよ!!」


目に涙をたくさんためて

さくらは徹夜で作ったピンクのくまのぬいぐるみを

小狼へ手渡した。


(俺はなんてことを考えていたんだ)


忘れられるわけがなかった。

こんなにもさくらを想っているのに。

こんなにもこの瞬間を待ち望んでいたのに。

小狼の心が一瞬で愛しいという気持ちで満たされ

さっきまでの冷酷な考えなど吹き飛んでいた。


「ありがとう・・・

このくま、さくらって名前にしていいか?」

「小狼君にもらったくまも小狼って名前にしていい?」


(ああ、なんて幸せなんだ)


はじめてさくらに出会った時から

たくさんの愛をもらった。

日本に来てすぐの俺は

自分のことしか考えてなかった。

自分の魔力を高めることしか考えてなかった。

さくらは、誰かのために一生懸命だったり

相手の立場で必死に物事を考えたり

いつも自分のことは後回しで

すごく優しくて

それでいて弱くて・・・頼りない。


守ってやりたい存在なのだ。


愛おしい存在なのだ。


今こそ自分が返す時。


「必ず帰ってくるから」


(さくらのために・・・)


小狼はこれから起こることに

立ち向かう決意をした。





小狼の欲しいものはたくさんある。



李家に頼めば大体のものは手に入るし

時間が解決してくれる。


衣食住に必要なもの

勉学に必要なもの

趣味に必要なもの、在り来たりだ。

彼女を守るために今までより強い魔力も欲しい。

それに見合った知識も。

これらは努力次第というところもあるが

本当に欲しいものはそんなものじゃない。


なかなか手に入らないものはただひとつ。


いや、手に入ったといえば

・・・そうなのかもしれないが


もっと・・・より確実に・・・


(魔力で何とかできたらいいのに)


と、夢のようなことを考えている

星條高校の昼休み。

中学の時のように騒がしい教室や食堂には行かない。

青空に心地よい風が吹くこんな天気が良い日は

外で静かに過ごしたい。

気分転換にもいい。

小狼は木に登り、足を組んだ状態で校庭を見下ろしていた。


(落ち着くな・・・最近忙しかったから)


精神的に参っているのか

人と関わることから避けて

ここにくるのが最近の日課になっていた。


その時

ふと、唯一無二の存在が目に入る。


彼女は別だ。

むしろ関わりたい・・・ずっと隣にいてほしいくらいなのだ。

昼休みはチア部の集まりだと言っていたはずが

何故かここにいる。

心配になって、小狼は木から飛び降りた。


「さくら、どうかしたか?」

「小狼君!」


不安そうな表情を見て

これはなんかあったと思いつく。

特に魔力の気配はないからカード絡みではないとも。

「部活は終わったのか?」

「ううん、抜けてきたの。あのね・・・」

「ああ」

さくらはポツポツと話し始めた。

「次の大会用のユニフォームね・・・あの・・・」

「うん?」

「制服は大丈夫なんだけど・・・

あのね・・・これは隠れないの・・・」

「何が?」

さくらは、顔を真っ赤にして

うつむいて恥ずかしがりながら

自分の制服のネクタイをゆるめはじめる。

「おまっ・・・え、何やって・・・!!」

さくらは、それを露にし首元を指した。

「これっ」

さくらは、胸元まで空いてしまった制服と

手元にもっていたユニフォームとその袋と一緒に

ギュっと両手で抱える。

「知世ちゃんにも千春ちゃんにも相談できなくて

どうしても小狼君にしか・・・

ごめんね、せっかくのお昼休みなのに」


小狼はようやく状況を把握した。


ユニフォームが鎖骨あたりまであいているデザインで

さくらはサイズ確認の際に

それに気づかされたのだろう。

「あ!・・・俺?!」

「・・・ほ、他にいないもん!」

「ご、ごめん!」

昨日、7月13日の誕生日を祝うために

マンションまで来てくれた時のことを

小狼は思い出していた。

さくらがあまりに可愛くて夢中で落としたキス。

見えるところにはつけないでほしいと言われていたから

細心の注意を払っていたのだ。


(制服だったら余裕で・・・)


小狼にとってユニフォームが想定外だったのだ。

「三原に発見されたのか?」

「うん・・・ぶつけたの?って言われたの。

でも、どこにもぶつけてないし

昨日はずっと小狼君のマンションにいたし」

「本当にごめん・・・嫌だったよな」

「嫌じゃないよ!うれしかったもん!!

ただ、思い出しちゃうと

そのあと普通でいられないかも・・・」

さくらも小狼も真っ赤になりながら

「はい、これ!」

「なんだ?絆創膏?」

「鏡ないし見えないから、小狼君が貼ってくれる?」

「ああ」

小狼はそれを確認するために

華奢なさくらの細い肩に手をかけて

さくらの首元へ顔を近づけた。

「・・・っ」

さくらは、小狼の前髪が自分の首筋にあたって

くすぐったくて耐えきれなくなり声をあげそうになった。

小狼の胸を押しながら

「小狼君、お顔がちかい・・・」

「よく見なきゃ貼れないだろ?」

「だって・・・くすぐったいもん・・・」

「じっとしてろ」

さくらはギュッと目を瞑って

肩を震わせながら、絆創膏が貼られるのを待った。


(可愛いな・・・)


小狼は、さくらの恥ずかしがる顔を横目に

それに触れるだけの口づけをする。

さくらはビクッと身体を固くした。

小狼はその様子に気がつき

湧き上がってくる抱きしめたい衝動を押さえつけ

そっと絆創膏を貼った。

「・・・あ、ありがとう」

「どういたしまして」

小狼は、深く溜息をついて

はだけてしまっているさくらの制服を整えてやる。

「今日の放課後は部活ないし

お父さんもお兄ちゃんも帰ってこないの。

よ、よかったらお夕飯一緒にどうかな?」

「大丈夫だ。じゃぁ、放課後に教室で」

「うん!」

さくらが走って部室に戻るのを見送ると

対象がいなくなり安堵したせいか

先程まで押さえつけていた衝動が戻ってきた。


―――ダン!


小狼は、校舎の壁に拳を打ちつけた。


冷静でいなければ・・・

見失わないように・・・


(さくらが欲しい)


この間求めたばかりなのに

またか・・・と小狼は自分にあきれていた。


意のままに手に入らない。


さくらは愛しい存在なのだから。



さくらはわかっていた。


さくらは気づいていた。


小狼が何かを隠しているということを・・・



さくらは、小狼が香港から帰ってきて

毎日のようにクリアカードの相談をし始めてから

様子が少しおかしいことに気が付く。

でも、さくらは何故か小狼にそれを聞いてはいけない気がして

気が付かないフリをしていた。

きっと、いつか自分に話してくれるだろうと・・・


小狼君、何を考えているの?

わかるよ、何かを言いたいっていう顔も。

私を見つめる、その瞳も。

ずっと見てきたもん。

みんなで話している時も

ふたりでいる時も

助けてくれる時も

小狼君は下を向いて、私から目をそらして

悩んでいるようにも見えた。

私に言えないことなんだよね。


そう・・・私のことなんだよね。


私のことを心配して小狼君は何かを隠してる。

小狼はきっと何かを伝えたいのだ。

でも伝えられない・・・それはいつわかるんだろう。

どうすると聞けるんだろう。


全部言ってほしい。


全部伝えてほしい。


あの桜の木で再会した時にした約束を

小狼は覚えているだろうか。

いや、信じるしかない。

きっと覚えている。


「全部教えてね!」


「ああ・・・」


絶対大丈夫、信じてる。

小狼君は私の一番大好きな人だから・・・

小狼は迷っていた。


どのように苺鈴に婚約解消の話を進めるかを・・・

在り来たりの話し出しなら簡単だ。



さくらを好きになった


さくらを愛してしまった



色々な言葉もシチュエーションも考えたが

どれも言い訳がましくて気が進まないのだ。

ただ、これだけははっきりしている。


ここを乗り越えなければ、さくらへの告白はあり得ない。


小さいころから一緒に過ごしてきた幼馴染に対して

最大の敬意を払って

今の気持ちを伝えたいと思った。

律儀だとか優しさだとかそんなんじゃない。

今までの自分を好きでいてくれた苺鈴へ

感謝の気持ちを伝えたかった。


ペンギン公園での襲撃もあって

苺鈴は俺の気持ちに気が付いてくれた様子だった。


「もし俺に一番好きなヤツができたら、苺鈴に言う約束だったな」


ああ、なんて俺はズルいんだろう。

あいまいに、そして、甘える形で

婚約解消話を進めることとなってしまった。


「きの・・・もとさん?」


そして、小狼はわざとらしく聞いてみる。

「な、なんで?!」

苺鈴への申し訳ない気持ちもあるが

こんな最中でも、小狼の心はさくらでいっぱいだった。



本当にさくらを好きになってしまったんだ



さくらに出会って俺は変わった。

俺はもう昔の俺には戻れないんだ。


ただ魔力を高めることばかりを考えていたあの頃には・・・


さくらは小狼が髪のカットをどうしているのか

すごく気になっていた。


(術者だからって・・・)


正直、驚きの事実だった。

さくらの家族も美容室に行かないけど

そういった理由ではない。


(今は?

誰かに切ってもらっているの?

まさか・・・自分で??)


さくらの興味は次第に嫉妬へと変わっていく・・・




苺鈴が香港から日本に遊びに来て

さくらの家に泊まることになった。

いつもの友人たちと月峰神社へ行く日

苺鈴がさくらの髪をウエーブになるように巻いてくれる。


(小狼君、どう思うかな?

似合うって言ってくれるかな??

・・・これで髪のお話聞きやすくなるかも)


月峰神社に集まった友人たちは

さくらの髪型をカワイイと言ってくれた。

さくらは単純に嬉しかったが、喜ぶことはなく

セットの仕方がすごいのだと苺鈴を褒めまくる。

さくらは、最愛の人に見て欲しかった。

大勢からのそれより、ただひとりからの言葉。

肝心の彼は、待ち合わせに遅れてくると連絡があり

先にみんなで市を見て待つことになった。

さくらは期待を胸にソワソワしていた。

友達と話をしても、お店で買い物をしても落ち着かず

彼を探してしまっていた。


---あっ!

来た!!


「遅くなってすまない!」


石段を駆け下りてくる音。

さくらはその方向を見上げた。

お互いに魔力の気配を感じ取っていたので

どこにいるかはすぐにわかる。

やっと最愛の人、小狼が来たのだ。

「・・・っ!」

小狼はすぐ目に入ってきたそれに驚き、頬を赤く染めた。

あまりの衝撃に何も声が出せなかった。

な、なんだこの可愛さ・・・!と思っていたが

もちろんそれはさくらには届いていない。

小狼は、手で口を覆って俯いてしまっていた。


(・・・何も言ってくれない)


さくらは少し落ち込み、ため息をついた。

小狼には何か事情があるんだと思い

期待の気持ちを仕舞い込む。

小狼に対する猜疑心が生まれ始めた時

友人たちに動物の耳としっぽが生え始める。

さくらは小狼にそれが生えていないことを確認するとホッとした。

しかし、友人たちから疎外感を感じてしまい

先程から小狼への期待と裏切りという感情が

心で渦を巻いていたさくらは

その心のままに・・・無意識に、別世界の空間を作りだし

小狼をその空間から弾き出した。

「さくら!」

小狼の声は届かず空間は閉じられる。

さくらの心は恐怖の世界を作り上げてしまっていた。

友人たちは動物そのものへと変化していき

山に囲まれたその別世界は落雷のせいで火災が起き

さくらはもうどう収拾すればよいのかわからなくなっていた。


その時


小狼が時間を止め、空間を切り裂いてさくらを追ってきた。

身を削ってさくらを助けに来たのだ。

自身の魔力が尽きるまで、気を失うほどに・・・

さくらは小狼のおかげでミラージュのカードを固着することができた。


(なんかすごく嫌な気持ちだった・・・私、酷い・・・)


さくらの心にはそんな気持ちだけが残った。

今の気持ちを何ともすることができず、さくらはただ

小狼と話がしたかった。

しかし、時間を止めるという高度な魔法を使い

その魔力を取り戻そうと休んでいる小狼は

ずっと頭を垂れたままベンチに座り込んでいた。

さくらが心配そうに彼を見つめると

何かを感じ取ったのか、小狼は顔を上げさくらの方を見た。

目が合ったふたりは、魅かれるようにお互いの方へ歩み寄った。

「少し話せるか?」

「・・・うん」

小狼の体調が悪いからという理由で

みんなより先に2人で帰宅することにした。

歩いている間ずっと沈黙が続いて

さくらは、何か気まずいなぁ・・・と思いながら

小狼の方をチラッと見る。

小狼から公園に寄ってもいいか?と聞かれたので

さくらはコクンと頷いた。

「もう、大丈夫だから。心配させてすまない」 

ふたりは思い出深いブランコに乗る。

今はお互いに、甘い思い出の後押しが必要な状況だった。

「・・・本当に大丈夫?」

「ああ」

「良かった・・・無理しないでね」

「大丈夫、無理してない」

「助けてくれてありがとう」

「いや」

「小狼君・・・あ、あのね」

「なんだ?」

「私ね、小狼君に言ってほしかったことがあって・・・

それを言ってくれなかったから

私、すごく嫌な気持ちになってたの・・・」

「・・・え?」

「だからきっと、ミラージュのカードが・・・」

「何を言ってほしかったんだ?」

「そ、それは・・・言えないっ///」

「何故?」

「私のわがままなの!だから、忘れて!!

小狼君がそんなに疲れてしまったのは

私のせいなの・・・ごめんなさい・・・」

小狼がブランコを降りてさくらの前に立つ。

「俺の魔力が足りないのは、お前のせいじゃない。

俺が未熟なせいだ。

それに、どんなことでも言って欲しい」

小狼はいつでも自分に厳しい。

そして、こうやってさくらを突き放す。

小狼と話ができたことで

少しだけ忘れていたモヤモヤした心がさくらの中に戻ってくる。

さくらは、ブランコに座ったまま

言うつもりがなかった言葉を口に出し始めた。

「・・・どうして?

そうやって私を遠ざける」

「違う」

「いつも小狼君に助けてもらってばっかり・・・」

「そんなことない」

「私も・・・どんなことでも言って欲しいよ・・・

どんなお話でも聞きたい・・・」

「・・・・・・」

さくらは小狼が言えないのはわかっていた。

これ以上、醜い自分を見られているのが嫌になり

この場を離れようとブランコから立ち上がった。

「何も言えない・・・何も話せない・・・

私なんかのために・・・

時間を止めてまで・・・私なんて・・・

わたし・・・私!」

さくらは目を潤ませて、走り去ろうとした時

小狼がさくらの腕をつかみ、自分の方へ引き寄せた。

「きゃ・・・!」

倒れる・・・!と思ったが、さくらは小狼に抱きしめられていた。

突然のことに驚いて目を見開き、涙が頬を伝う。

「しゃ・・・小狼君・・・」

さくらの髪を撫でて、もう一度強く抱きしめた。

不安にさせてしまったのかもしれないと小狼は思った。

「お前が・・・いや、さくらが大切だから。

俺がさくらを守りたいんだ。

遠ざけているわけじゃない」

「うん・・・」

「さくらが好きだから」

「はい・・・」

小狼の一言で心が満たされた。

ああ、これを望んでいたんだと・・・

最近の事件続きでずっと相談していたから

さくらには、安全な場所に居て欲しいと願う小狼の気持ちが

痛いほど届いていた。

理解していたのに、猜疑心が勝ってしまっていたのだ。

小狼は理解してもらえたとその雰囲気に安堵すると

さくらの頬を伝ってた涙にキスをする。

そして、頬を両手で覆って唇を重ねた。

唇が離れると、また抱きしめ合って・・・2人はそれを何度か繰り返した。

「・・・今日は2回目だね」

「何がだ?」

「抱きしめてくれるの」

「・・・!!

い、今なら・・・俺に言いたかったこと、言えるか?」

さくらは小狼に抱きしめられている安心感で

心が開放的になっていることもあり

少し恥ずかしがりながら話した。

「あ、あのね・・・」

「うん?」

「今日、髪・・・少し違って・・・」

「ああ、似合ってる・・・そ、その髪型」

「本当?すごく嬉しいよっ!

小狼君に一番に見てほしかったの・・・」

「そ、そうか。

今日は遅くなってすまなかった」

「ううん・・・小狼君、大好き・・・」

小狼は顔を真っ赤にして視線を逸らすと

さくらは優しく魅力的に彼に微笑んだ。


(やっと聞ける!)


「それでね・・・

小狼君の髪のカットはどうしてるの?」

「えっ?」

「よかったらウチに来ない?」

「は?」





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クリアカード編第14話の補完・・・

(補完じゃない捏造だな)のお話でした。

書いてて楽しかった♪

テーマは

さくらが小狼と苺鈴の過去に嫉妬

です!!

小狼はお姫様役なんかやりたくなかった。


(なんで俺がこんな役やらなきゃいけないんだ!

でも、あの人が見てくれるからやる。

早朝練習の日、王子が姫にキスするシーンで

アイツが本当にしてくると思わなかったから・・・)


サンドのカードに気が付くのに遅れを取ったのだ。


(劇なのに普通するか?!

アイツが純粋だからなのか。

それとも・・・?

顔色一つ変えずに自分の唇を近づけてくるなんて)


本番当日

小狼は練習での出来事があったからか

ものすごく緊張していた。


(今日はあの人も見ているからしてこないだろう)


でも、もしかしたら・・・という期待があった。

小狼は、興味津々で片目をあけ

リップが塗られた唇が近づいてくるその瞬間を

ゆっくりと待った。

今度こそ味わうために・・・


?!

(クロウカードの気配だ!)


「気を付けろ!これはダー・・・」

さくらに伝わる前に小狼は闇に飲み込まれる。

正体に気が付かなければ特殊カードは封印できない。


(待つしかない。

アイツが気が付かなければこのままだ。

少し味わえないのは残念な・・・

!!

俺は何を考えているんだ!

アイツに期待しているのか?)


と考えていると

パッと元の世界に戻る。


「ヤッター!」とさくらが小狼に抱きついてくる。

小狼はそれに驚き、顔が真っ赤になった。

自分の心臓の音がさくらに伝わってしまうと思い

必死に隠そうとする。


(一体、俺のことをどう思っているのか?

まさか何も考えてない??)


純粋すぎるさくらの行動に、小狼は深いため息をついた。




「急々如律令!」


小狼の羅針盤から光線が発せられ

彼女が隠しているそれを指した。


-クロウカード-


(みつけた!!

アイツが持っていることは昨晩からわかっていた。

今ならまとまって手に入れることができる。

これからは俺が集めるんだ。

そして、魔力を高めていくんだ)


小狼は、散らばったクロウカードを集めるために

香港から日本に来たのだった。


「出せ!クロウカードを」

「ダメッ!」


彼女は抵抗して必死にスカートのポケットを抑えた。


(早く俺に渡せばいいものを・・・

アイツはどうしたら素直にカードを渡してくれるのか)


「そうか、そのポケットか・・・」


小狼は、じりじりと彼女に詰め寄った。

そして、抵抗する彼女の腕をつかみ

全力でスカートのポケットに手を伸ばした。

クロウカード目掛けて一直線に。

その時だった。


(今触った柔らかいものはなんだ?

アイツの下腹部のあたりか・・・)


小狼はスカートの中で触れてしまった

熱を帯びている何かに気づいた。

冷静に振る舞っていても、内心はその柔らかさに驚いていた。

距離をとった後、気になってチラッと彼女の様子を探る。


フェンスに寄り掛かり溜息をつく彼女の頬が

ピンク色になっているように見えた・・・